yaunn Pottery story

「できる」を越えた究極の面白さを届けるために。職人が本気で挑む仕事 -HAKU 古林紀昌 story- #2

カップやお皿のような何気なく使っているものでも、愛着が持つことができればずっと使いたくなるはず。yaunnでは、アイデアから始まり、人と人のつながりが生まれ、工夫や知恵を凝らして作られていく“ものづくりのストーリー”を丁寧に伝えています。

今回販売をスタートするおばけの形をした白いお皿たちは、絵本や工作、アートディレクションなど幅広くアーティスト活動をする、亀山達矢さんと中川敦子さんによるクリエイティブ・ユニット「tupera tupera」(ツペラ ツペラ)のアイディアから生まれました。このアイデアをお皿として実現するまでには、数々の壁がありました。

tupera tuperaのお二人がこだわったおばけの形や模様など、難しい過程を越えて商品化を実現した「HAKU」代表の古林紀昌さんに、yaunnプロデューサーの陳野も加わって、開発ストーリーを振り返っていただきました。

これまでのプロジェクトで一番難しかった

「たとえ少量生産でも、自分の“好き”を持った人の個性的な世界感を表現したい」という古林さんの想いから、約10年前に始まった「HAKU」。真っ白なお皿に凸凹を活かした自由なデザインが施され、しっとりとした手触りの高級感も感じられる器ブランドです。

今回のプロジェクトで生まれたおばけ形の白いお皿は、セットになった3つのおばけたちが今にも動き出しそうな躍動感とキュートな表情が大きな特徴です。
「HAKU」は、これまでに多様なデザインを表現できる高度な技術を生み出していたので、たいていのものはできると自信もっていたと話す古林さん。「今回、HAKUを始めてから、一番難しいプロジェクトでした」と、率直な感想を語りました。

カネ一 古林さん

「最初、yaunnプロデューサーの陳野さんからお話をいただいた時は、今まで通りの技法と工夫でできると思っていました。
ところが、お皿自体が人型に形どられた『さらださらお』や、お皿を額縁に見立てる『GAHAKU(画伯)』など、tupera tuperaのお二人のアイディアラフをいただくうちに、だんだん『できるかな……』と自信がなくなっていったんです(笑)。良い意味で、想定外のアイデアでしたね。
『難しい』と言うのは簡単ですが、自由で個性的なデザインを生み出すために『HAKU』をつくってきたのだからと、ずいぶん葛藤しましたね」

妥協しない。どうすれば実現するかだけを考える

tupera tuperaのお二人の、魅力的だけれど実現が難しそうなアイデアを商品化するために、新しい技術を模索する過程が始まりました。

カネ一 古林さん

「技術的にアイデアを実現できるかどうか以外にも、お客様に説明しなくても面白さが伝わるか、使い勝手がわるくないか、ビジネスとしてコスト面で成り立つかなど、お皿の製造・販売のプロとしていろんな面からも心配しました。

一度、これまで『HAKU』で作ったことのある技術で作ることができるお皿にしたほうが総合的に良いのでは?と提案もしました。

ですが、『せっかくいろんな人が集まってアイデアを出し合っているのに、簡単に諦めていいんでしょうか?』というtupera tuperaのお二人の意見にまずは陳野さんが賛同して、次第に私もやるしかないという気持ちになっていきました。そこからは、どうすればtupera tuperaのお二人のアイデアを実現できるかを最優先にして、一つひとつのステップを踏んでいきました」

陳野はその頃をこう振り返ります。

yaunn 陳野

「できる範囲にとどまって、誰もが想像できるようなものを作るのではなく、『できる』を飛び越えた時に本当に良いものができるのだろうと思いました。ただ、言うのは簡単で実際は難しいと思います。製造過程では、古林さんとtupera tuperaのお二人の、ものづくりへの熱い想いを何度も感じました」

作るうちに「もっと面白くなるかも」とワクワク感も

古林さんは、これでまでに作ったことのないものをゼロから作っていく中で、難しさや心配だけでなく、「もっと面白いものができるかも」とワクワク感も生まれたと言います。

カネ一 古林さん

「製造技術面の困難さだけでなく、使い勝手の良さやお皿としての斬新さなど、いろいろ話し合い重ねる中でたくさんのアイデアが生まれては消えて行きました。そして、今回実現に至った、3枚でひとつのセットになるお皿のアイデアを最初にご提案いただいた時は、純粋に『面白い!』と思いました。お客さんにも伝わりやすいと思いましたし。ただ、最初は、『どう製造すればいいんだろう……』と悩みました。

『大丈夫です。任せてください』とは言えなかったので、『やってみないとわからないけれど、一度やってみます』と言ったことを今も覚えています。心の中では『できなかったらどうしよう』とドキドキしていましたね(笑)」

今回のアイデアが生まれた瞬間。それは、古林さんにとって、また、tupera tuperaのお二人やyaunnの陳野にとっても、プロジェクトのスタート時からデザインと実現性・機能性の相性を探りつつけてきた中で、一筋の光が見えた大事な転換点となりました。

「絶対にできない」から探し当てた「できる」可能性

ここから先は、今回のお皿を実際に製造する過程について、詳細に聞いていきましょう。

カネ一 古林さん

「まず、tupera tuperaのお二人が作成してくださった手描きのラフデザインをもとに図面をつくり、立体の原型をつくります。原型は、3Dプリンターでレンガのような形の石こうを削り、形を整えて作ったものです。今度は、その原型をつかってお皿の型を作ります。この型も、原型と同じように石こうで作ります」。

『HAKU』では、型は専門の職人さんに依頼しているそうです。

カネ一 古林さん

「図面を見せた段階で、職人さんから『絶対にできない』と言われてしまいました。かといって、できることにアイデアを合わせてしまうと、tupera tuperaのお二人が生み出したアイデアの特徴が消えてしまいます。『できない』と『できる』の間のギリギリの可能性を探すしかないと思って進めていました。

カネ一 古林さん

tupera tuperaのお二人が描いたデザインの曲線とイメージだけは絶対に崩さない前提で、リム(お皿のふちの一段上がった部分)の角度や曲線をミリ単位で調整しながら、職人さんに『できそうですか?』と相談していきました。何度かやり取りして、職人さんに『これならできるかもしれないけれど、失敗するかも』と言われた時に、『この線しかない』と思って『できるかもしれない』に挑戦したんです」

複雑な形になっているおばけの手の部分も、通常の器の製造プロセスでは「できない」けれど、古林さんは「できそう」の部分を根気強く探していったそうです。

どうしよう。でも、やるしかない

石こうを流し込んで作る型も、製造過程で原型が抜けなくなったり、壊れてしまったりすることもあるそう。石こうが膨張することで、複雑な形を維持できない不安定な状態になってしまうことがあるため、「その状態を避けられるギリギリの線を探した」と古林さんは言います。

慎重に試行錯誤した甲斐があって、原型から型を作る段階は、たった一度で成功したそうです。それでも、「まだ型の段階をクリアしただけ」と古林さん。

カネ一 古林さん

「完成までの一つひとつの段階に課題があったので、型ができた後もまた新しい課題を越える必要がありました。成形は私が担当しましたが、粘土が型にうまく収まらなかったり、固まらずにひびが入りやすくなるなど、気を付けなければならない点がたくさんありました。もともと粘土は水分を含んでいるので、成形後も外に出して乾かす必要がありますが、複雑な形だと、負荷がかかりやすいのでひびが入りやすいんです。

カネ一 古林さん

また、粘土を型に流し込む時にはしっかりと空気を抜いて空気だまりができないようにする必要があります。今回は形が複雑なため、いつも通りのやり方では空気だまりができてしまうので、ここも悩みました。

カネ一 古林さん

粘土の水分量や粘土を流し込む圧力を調整し、何度も繰り返し挑戦していたら、だんだん空気だまりが小さくなっていき、この方向でいけそうだという感覚を掴みました。こうして理想の状態にまで近づけることができました」

無事に完成を迎えた時のことを、「本当に、実際にやってみるまで、できるかどうかわからないことだらけだった」と古林さんは振り返ります。

家族で囲んで、楽しんでもらえるお皿に

たくさんの試行錯誤を経て生まれた今回の商品。いよいよ販売が開始され、みなさまの食卓に並ぶ日が近づいてきました。

カネ一 古林さん

「『HAKU』の特徴でもある凸凹デザインの一番良いところは、凹凸を自由自在に変えられることです。同じ原型を使っておばけの表情を新しく作るなど、バリエーションを増やすことで、今後もおばけ型の新しいお皿をつくって面白さを引き出していけそうだと思っています」

表情豊かなおばけのお皿。「ハロウィンイベントで使っても楽しそうですよね」と古林さんはイメージを膨らませます。

カネ一 古林さん

「お子さんに喜んでもらえそうだし、ご家族で楽しんでいただけたらうれしいですね」

作家のポテンシャルを引き出す面白さを知った

今回のプロジェクトで、古林さんはいくつもの壁にぶつかり、試行錯誤のチャレンジを繰り返しました。完成までの過程で、大きな気づきがあったそうです。

カネ一 古林さん

「オリジナル原型から作ると、どうしても費用がかさみます。ですが、作家さんのポテンシャルを大きく引き出すためには、原型づくりから始めたほうが面白いものが作れることがよくわかりました。今後、作家さんとのプロジェクトでは、これまでよりもっとオリジナル性が豊かで面白い作品を作れそうです」

今回のプロジェクトを振り返って、陳野は、「一つのお皿ができるまでに、いろいろな人のアイデアや工夫、職人さんの技が丁寧に関わっていることを知りました」と話します。

カネ一 古林さん

一人ひとりの「面白そう」がつながって、困難を乗り越え、世界にたった一つのお皿が生まれた今回のプロジェクト。たくさんの陶磁器の製造・販売を手がけてきた古林さんが「これまでこんなに形もデザインも自由なお皿は見たことがない」と話す、「yaunn」の世界をもっと面白くしてくれそうなおばけのお皿が、みなさんの日々の食卓にワクワクと笑顔を届けてくれることを願っています。

HAKU

カネ一古林商店(カネイチコバヤシショウテン)が展開するオリジナル磁器ブランド。カネ一古林商店は美濃焼の産地・岐阜県土岐市にて、およそ100年に及ぶ業務用食器の販売実績があり、国内だけでなく海外への販売も積極的に行っている。モノや情報があふれている現代において、自分だけの個性が詰まったモノを求める人のために、オリジナル磁器ブランド「HAKU」を開発。真っ白な生地に凹凸の線画で自由な世界観を醸成できるのが「HAKU」の魅力。さまざまなクリエイターとのコラボ企画を展開している。
https://www.haku-shop.com/

カネ一古林商店
代表取締役社長 古林紀昌(コバヤシ・ノリマサ)

商品紹介 はらぺこおばけプレートセット

絵本や工作、アートディレクションなど幅広くアーティスト活動をする、亀山達矢さんと中川敦子さんによるクリエイティブ・ユニット「tupera tupera」(ツペラ ツペラ)のユニークなアイディアから生まれた、真っ白いおばけの形をした3枚セットのお皿。
製造は、美濃焼の産地・岐阜県土岐市にてオリジナル磁器ブランド「HAKU」を展開するカネ一古林商店が担いました。

はらぺこおばけプレート 3枚セット
はらぺこおばけプレート 3枚セット

真っ白でなめらかな素材に、tupera tuperaの生み出した表情豊かなおばけが線画で描かれた「はらぺこおばけプレート」は、異なるサイズの3枚のおばけプレートで構成されています。1枚ずつ使っても、3枚セットで盛り付けてもOK。3枚合わせるとゆるやかな円状になり、大きな1枚のプレートのように使うこともできます。同じ形のプレートをたくさん集めると、おばけの兄弟?!として使うことも◎
真っ白で自由なおばけプレートは、きっと、あなたの毎日を楽しくするでしょう。

毎日使うモノのことを知る、選ぶ力を磨く。

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