毎日使うモノのことを知る、選ぶ力を磨く。
ショップに並ぶ衣服や雑貨。お店の人からその背景にあるストーリーを聞いたらぐっと魅力的に感じられた、という体験はありませんか?yaunnは、アイディアから始まり、さまざまな人の関わりを通じて生まれる「もの」づくりのストーリーを丁寧に伝えています。
今回新たにyaunnの仲間入りをする「はらぺこおばけ」は、おばけの形をした3枚組の白いお皿です。デザインを手掛けたのは、絵本や工作、アートディレクションなどで幅広く活動する、亀山達矢さんと中川敦子さんによるクリエイティブ・ユニット「tupera tupera」(ツペラ ツペラ)です。
「白いお皿を一緒につくりませんか?」というyaunnのリクエストから3人組の白いおばけのデザインが生まれるまで、さまざまな紆余曲折があった様子。tupera tuperaのお2人にyaunnプロデューサーの陳野も加わり、「はらぺこおばけ」が生まれるまでのストーリーを語っていただきました。
まず、tupera tuperaの亀山さん、中川さんとの出会いについて、陳野が振り返りました。
お2人と初めてオンラインでお話ししたのは2021年の2月ですね。ナチュラル・ポーセレンという素材を用いて白い器をつくるHAKUさんという方がいて、彼らと組んでお皿をつくりたい、というご相談をした記憶があります。
yaunnからの最初のオファーに対して、
「僕はだいたい一番最初は疑ってるんですよ」
と亀山さん。いったいどういうことでしょうか?
顔には出しませんが、心の中で疑ってるんです(笑)。いくら良い内容のメールでも、逆にそっけなくても、最初は真に受けないようにしています。お話ししたり会ったりして関係ができてこないと実際のところはわかりませんから。yaunnさんとも、たぶん最初はそんな感じでスタートしました。
一方の中川さんは、
その時期、まだコロナに対して今よりも窮屈な感じがありました。「家にいなくてはならない」という制約がまだまだあった。だから、食卓が楽しくなるようなものにしたいと思ったことは覚えています。
tupera tuperaといえば、色画用紙を切ったようなカラフルな平面で構成されたデザインが特徴です。一方、HAKUの器は、真っ白な磁器の表面に凹凸の型押しで模様をつけていくスタイル。作風にはかなり違いがありそうですが、戸惑いはなかったのでしょうか?亀山さんが、正直なところを教えてくださいました。
最初は向いてないと思ったんです。ただ、そこに新しいものづくりがあると思った。真っ白で、色が使えなくて、という縛りがあることで、アイディアが出てきました。
そのアイディアの一端を、改めて見せていただきました。たとえば、額縁を模した「GAHAKU(画伯)」。中の料理が絵画のように見えるしかけになっています。他には、人型のお皿「さらださらこ」と「さらださらお」。着せ替え人形のように、盛り付けが楽しめます。最終的にボツになった案ではありますが、心惹かれるアイディアです。
tupera tuperaらしい自由なアイディアが続々と生まれる中で、今度は「本当にできるのか?」という具体化への不安が生まれてきた、と陳野は振り返ります。
HAKUさんから、ビジネス的に考えるとHAKUの規格の中で絵を描いてもらった方が最終的に良いものになるんじゃないか、とご提案をいただいたんです。実際、一度はそちらに戻しかけたんですよね。ところがそのとき、お2人から「ものづくりってそれでいいんですか」ってメールをいただいて。
僕はそんな強い言い方できないな…それは中川ですね…
笑。あれは、途中で妥協みたいになった瞬間だったと思うんです。妥協してできる範囲でじゃあやろうか、っていう結論が、なんかつまらない…テンションが下がっちゃうなって。そうやってつくったものって、届いた時にも面白くなくなっちゃうので。
そのメールをいただいたときに、そうだよな、と思って。『難しいけど今までの中で収まらないものでやっていく』という決断をしたんです。どうなるか分からないけど、とにかくやり切ってみようと。
「さらださらこを考えていたあたりで、着色できないか?というご相談もしましたね。」と、中川さんも当時の紆余曲折を振り返ります。やはり色をつけたい、という中川さんたちのリクエストに対し、陳野も迷っていた、とのこと。
私たちもお2人と同じく、もしかすると色も入れられるんじゃないかと思っていたんです。でも、HAKUさんから製作プロセスを伺って、色はやっぱり無理なんだ、と。私たちも学習しながら、『こんな制約があって、その中でどうしていくか一緒に考えてもらえませんか』と何度もお話した記憶があります。
そこでもう一回『真っ白という制約で何ができるか』ということに戻って考える中で、おばけのアイディアも出てきたんですよね。
改めて、『白いお皿』という制約や、『食卓が楽しくなる』という原点に立ち返ることで、中川さんの中に新しいアイディアが生まれてきました。
お皿が置いてある食卓の風景を考えてみたんです。下に敷くランチョンマットで背景をつくることで、もっと遊べるんじゃないかと思ったんですよね。そのあたりで、猫や雲をモチーフとするアイディアも出てきました。
亀山さんは当初、猫のモチーフを推していたそう。
猫モチーフは、喜ぶ人が多いんですよね。ただ、考えてみたら僕たちはぜんぜん猫好きじゃないんです。動物愛がない(笑)。だから僕らがつくるとなると少し違うのかな、と。その点、おばけは僕ららしくていいんじゃないかと思いました。人様のお金でものづくりをしている以上は、ちゃんと売れるのかをどうしても考えます。その点からも、おばけは行けると思ったんです。
一方の中川さんは、HAKUの器とおばけモチーフの相性の良さに気づいたと言います。
HAKUさんのお皿は白に型押しなので、模様もそんなにくっきりとは出ません。そのあいまいな存在感も含め、おばけらしくていいかなという気がしました。顔がくっきりみえてるよりも、弱く現れているのがおばけらしいんじゃないかと。
そんなふうにして決まった「はらぺこおばけ」のデザイン。実際にお皿になるまでのHAKUさんサイドのストーリーは、ぜひvol.2をお読みください。
HAKU Story#2
さて、いよいよ出来上がった「はらぺこおばけ」。この作品をどんな人に、どんな風に使って欲しいかといったつくり手としての願いを伺ったのですが、亀山さんからは、
なんだろうね…特にはないですね。
という、なんともあっさりした答えが返ってきました。
中川さんも、
『日々の食卓を楽しくしたい』という、自分たちなりに作品にこめた願いはあるんですけど、だからといってその通りに使ってね、というようなメッセージはないですね。いいものができたから、と渡して、相手がどう受け取るのかはお任せというか…逆に、どんな人がどんな風に使ってくれるのか、楽しみにしている感じです。
と続けます。
僕が使うなら、イカソーメンを入れたいですね…お皿は全部で3つあるので、小さい方に醤油を入れて、大きい方にイカソーメン入れて…イカはいいかも。
これからのtupera tuperaはどんなものづくりをしていこうとしているのでしょうか。「よく聞かれますが、特にはないんですよね」と亀山さん。
僕らの20年間は、思ってもみなかったことの連続でした。先々を思い描かず、日々を楽しんでいるうちに、『今年はこういう年だったのか』と、思ってもみなかった一年で終わるんです。新しい人にもポンポン出会うし、イレギュラーな日常が好きなので。このお皿にしたって、これができるとは思ってもいなかったわけですしね。
それはtupera tuperaのお2人だけでなく、yaunnの私たちにとっても同じこと。想像もしていなかったものが生まれたことの面白さをあらためて感じます。
tupera tuperaは、これからもいろいろな人たちからのリクエストに対して、自分たちのアイディアを生み出していくのでしょうか。
そうですね。そこは変わらないと思います。たまには人に裏切られたり、裏切ったりしながら。
と、またまた亀山さんらしい答えが返ってきました。
結局は人間が面白いんですよね。いろんな人がいるのが面白いし、人に振り回されたりするのが面白い。だから、そこをどう楽しむかが重要ですね。何事も、楽しんだもの勝ちじゃないですか。楽しみながらひとつずつ丁寧にやっていけば、結果として面白いものがいろいろ出来上がる。
今回も、楽しんでみんなであれこれやっているうちに、みんなにとっていいものができた。よかったなあ、って感じじゃないですか?―亀山さんの一言が、「はらぺこおばけ」をめぐる、tupera tuperaさん、HAKUさん、そしてyaunnの私たちの1年以上に渡る試行錯誤の日々を、一番よく表しているように思いました。
亀山達矢と中川敦子によるクリエイティブ・ユニット。 絵本やイラストレーションをはじめ、工作、ワークショップ、舞台美術、空間デザイン、アートディレクションなど、様々な分野で幅広く活動している。著書「かおノート」(コクヨ)、「やさいさん」(学研教育出版)、「いろいろバス」(大日本図書)、「うんこしりとり」(白泉社)など多数。海外でも様々な国で翻訳出版されている。2019年に第1回やなせたかし文化賞の大賞を受賞するなど、さまざまな受賞歴も。武蔵野美術大学油絵学科版画専攻 客員教授、大阪樟蔭女子大学 客員教授。
https://www.tupera-tupera.com/
PHOTO RYUMON KAGIOKA
絵本や工作、アートディレクションなど幅広くアーティスト活動をする、亀山達矢さんと中川敦子さんによるクリエイティブ・ユニット「tupera tupera」(ツペラ ツペラ)のユニークなアイディアから生まれた、真っ白いおばけの形をした3枚セットのお皿。
製造は、美濃焼の産地・岐阜県土岐市にてオリジナル磁器ブランド「HAKU」を展開するカネ一古林商店が担いました。
真っ白でなめらかな素材に、tupera tuperaの生み出した表情豊かなおばけが線画で描かれた「はらぺこおばけプレート」は、異なるサイズの3枚のおばけプレートで構成されています。1枚ずつ使っても、3枚セットで盛り付けてもOK。3枚合わせるとゆるやかな円状になり、大きな1枚のプレートのように使うこともできます。同じ形のプレートをたくさん集めると、おばけの兄弟?!として使うことも◎
真っ白で自由なおばけプレートは、きっと、あなたの毎日を楽しくするでしょう。
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