毎日使うモノのことを知る、選ぶ力を磨く。
「アップサイクル」という言葉はご存知ですか?
「リユース」とも「リサイクル」とも異なる、「アップサイクル」という資源の再生方法が注目を集めています。どれも使わなくなった物を活かす手法ではあるのですが、一体どう違うのでしょうか。
アップサイクルとは、使わなくなった物を捨てるのではなく、デザインやアイディアによって新たな付加価値を与え、別の新しい製品にアップグレードすることです。
リサイクルの場合は、原料に戻したり素材に分解したりする際にエネルギーが必要ですが、アップサイクルは元の形を生かすため、環境負荷を抑えることができます。
また、再利用のリユースとも違い、別の製品として生まれ変わらせることで、寿命を長く引き延ばすことができます。アップサイクルは、よりサステナブルな資源再生の方法として注目されているのです。
最近話題のアップサイクル方法を2つご紹介します。
ひとつは「ダーニング」。
擦り切れたり穴が開いたりした衣類を補修する、イギリス発祥の修繕方法です。
ただ補修するだけでなく、カラフルな糸を使うと、ワンポイント刺繍のような楽しみ方ができます。
長く履いていた靴下に穴が開いてしまったり、お気に入りのシャツにシミがついてしまったりした時に、そのままゴミ箱に直行……では少し寂しいですよね。
自分の手で生まれ変わらせることができたら楽しそうだし、いっそう愛着が湧いてきそうです。
ダーニングに必要なのは、針と糸、そして「ダーニングマッシュルーム」と呼ばれる、布にあてるための器具だけ。
初めのうちは細めの毛糸や刺し子用の糸のような、普通の糸よりも太めのものがおすすめです。
ダーニングマッシュルームは手芸店で扱っていますが、おたまやスプーンの背など、つるつるしたドーム型のものでも代用可能です。
靴下の穴が空いてしまったときなど、試してみたいですね。
実際の縫い方は、インターネット動画でもたくさん出ています。ぜひ参考にしてみてください。
もうひとつご紹介したいのが「金継ぎ」です。
陶磁器の割れや欠け、ヒビなどの破損部分を漆によって接着し、金粉などで装飾して仕上げる修繕方法です。
室町時代頃から伝わる日本ならではの技術なのだそうです。金継ぎも修繕するだけでなく、金色の線を生かし、新たな美しさを生み出せることが魅力のひとつになっています。
本来は職人技ですが、金継ぎワークショップが開催されたり、初心者むけのキットが販売されるようになったりと、近年、関心が高まっています。
器についた傷を消そうとするのではなく、装飾として新たな表現に変えてしまう発想がユニークですね。手をかけることで芸術的な価値を高める、伝統の中に息づくアップサイクル方法だと言えるでしょう。
簡易キットを使った金継ぎの方法は、漆や研粉、金粉などを順番に塗り重ねていくシンプルなものですが、
ひとつ塗っては乾かし、乾いたら次を塗っていくため、仕上がりまでに2週間ほどかかります。
気持ちにゆとりのある時期に、毎日少しずつ進めていくのが良さそうです。
たとえ元は大量生産の衣服や器だったとしても、アップサイクルすれば世界にひとつしかない新たな個性や美しさが生まれます。
時間や手間をかけた分、さらなる愛着も湧いてきそうです。
また、クラフト初心者にとっても、一から作るのではなく、既製品のアレンジを通じて自分だけの作品ができるアップサイクルは魅力的です。
素材から作るよりもはるかに手軽に、環境への負荷も少なくクラフトを楽しむことができます。
最初からお手本のようにうまくいくとは限りませんが、いびつな形もまた自分らしい味わいのひとつとして、新たな価値になります。
あなたのお宅にも、傷んだまま使っていたり、捨てられずにクローゼットや棚にしまい放しの衣服や器がありませんか。
アップサイクルで楽しく蘇らせることができるかもしれません。
もう一つ、アップサイクルの技術をご紹介します。
日本に古くから、傷んだり不要になった布を裂いて細い糸状のハギレをつくり、手織機で織り上げる“裂織(さきおり)“という織物があります。
当時、寒冷な気候の東北地方では、繊維製品はとても貴重なものでした。裂織は貴重な繊維を上手に使うために生まれた工夫のひとつです。資源を活かすだけでなく、いろんな布を織り込むため、色とりどりの美しい織物が完成します。
まさにアップサイクルの先駆け的存在と言えるかもしれませんね。
裂織のように技術が必要になったり、手間暇がかかるもの以外にも、空き瓶を花瓶として使ったり着古したTシャツやジーンズからエコバッグを作ったりすることもアップサイクルのひとつ。特別なことではなく、日常生活のさまざまな場面にアップサイクルは根づいているのです。
自分で手仕事をする以外にも、アップサイクルに触れることができます。ここでいくつかご紹介します。
■FREITAG(フライターグ)
アップサイクルで有名なブランドといえば、
スイスのバッグブランド「FREITAG(フライターグ)」。
使わなくなったトラックの幌布、自動車のシートベルト、自転車のチューブなどを用いた、実用的でデザイン性の高いバッグや小物で広く知られています。
■BEAMS COUTURE(ビームス クチュール)
セレクトショップ、アパレルブランドのBEAMSは、
自社の倉庫にあるオリジナル商品のデッドストックを中心に、手仕事によるリメイクで新たな価値をもつ一着へと蘇らせる
「BEAMS COUTURE(ビームス クチュール)」を展開しています。
新しい品物を購入する時、新品だけでなくアップサイクルの製品も選択肢に入れてみると、その背景やストーリーを感じることができて、面白いはず。
捨てるのでもなく、元の形に修復するだけでもなく、少しずつ新たな価値を足しながら大事に使い続ける。そんな息の長い「物」とのつきあい方が始められたらいいですね。
参考:
IDEAS FOR GOOD
クロバー株式会社(ダーニング)
東急ハンズ(金継ぎ)
八田 吏
ライター。熱海で6年間中学校教員として働いた後、仙台、さらに東京へ転居。それぞれの土地の風景や文化を楽しみながら暮らしてきた。私生活では2児の母。
今、環境に負荷をかけない暮らし方の情報も選択肢もたくさんあります。わたし自身もできるだけ心がけてはいますが、なかなか徹底できずにいます。それは、わたしの中に「環境に負荷をかけない」イコール「少しだけがまんすること」という印象があるから。ですから、手をかけることで新品の時よりも価値をあげる、というアップサイクルの考え方を知り、とても惹かれました。
取材後、自分も何か手を動かしたくなり、手持ちのパンツの裾上げをしてみました。少し長いなあと思いつつ、直すのが面倒でそのまま履いていて、やはり合わないのでだんだん履かなくなっていたのです。ところが縫い物って、やってみると案外楽しいんですね。着用時の小さなストレスも解消されてスッキリしました。手をかけながら物を使っていくことの楽しさは、探してみるとけっこう身近にあるのかもしれません。
要らなくなった物を資源に変換して再活用するだけでなく、そのものを活かしてさらに価値を上げるという考え方に共感しました。 物は使う人によって、価値を認められたり、無価値だとされたりします。使う人が工夫したり、新しい視点で物を見つめることができたら、むやみに捨てられる物が減っていきそうです。最近、断捨離など、整理整頓をしてすっきり暮らしたいという気持ちが高まっていたのですが、ただ捨てるだけでなく、アップサイクルという視点にも、すっきりと気持ち良い暮らしへのヒントがあると感じました。
穴の空いた靴下を、ただ縫い合わせるだとちょっと不恰好になったり履き心地が悪かったり、またすぐ穴が空いてしまったり。どうしても、ちょっと残念な印象がつきまとっていましたが、ダーニングだとそこにワクワク感を感じました。ただ、実際に取り組むにはちょっとハードルが高そうな印象も。金継ぎもそうですが、自分自身に時間だけでなく気持ちのゆとりがないと、なかなか手間をかけられないな、とも思いました。「今度やろう」と思って、保管してそのまま忘れるというパターンも想定できます(苦笑) とはいえ、環境に優しい暮らし、丁寧な暮らしには、手間がかかるもの。その手間がワクワクに変換されるという点でアップサイクルはいいアイデアだなと思いました。 平地紘子 フリーライター
少し傷んだからと言ってすぐに捨ててしまうのは資源の無駄遣いだ、ということは分かります。しかしどこから何を始めるのがよいか、普通に生活している中で、うまくこなすのは難しそう。 難しいことを考えずに、自分ができる範囲でできることから始めるのがよいのでしょうか。靴下の穴あきは特に気になるので、そこから始められればと思いますが、うまくできるかどうか... 手に入れた時より価値を上げる、というのは個人の技術では難しい気がします。メーカーがうまく低コストでアップサイクルをできるようになるのがベストなのではないでしょうか。
「使う」「食べる」など、日常生活を通して考える力を養い、自ら思考し、判断する人を増やしたい。
yaunnは、身近な生活を通してものごとに興味をもち、自分の視点を養うこと。 それが、さまざまな問題を解決する一歩目になると考えています。
すべての人が自ら思考し、判断する力をもつ。
それによって、世の中はより良い方向へ変わると信じています。
yaunnについて、詳しくはこちらをご覧ください。
https://yaunn.jp/about/
毎日使うモノのことを知る、選ぶ力を磨く。