毎日使うモノのことを知る、選ぶ力を磨く。
丁寧な暮らしをしているとは言い難い毎日の中で、唯一、胸を張って言えることがあります。それは、味噌を毎年手作りしていること。
正直に言うと、材料の購入から下準備までは友人が全部やってくれます。なので、「手作りさせてもらっている」と言った方が正しいのですが。
それでも、自分で大豆をつぶし、混ぜるという手作業をした味噌はとっても愛おしいもの。仕込んだ日から、そろそろいい具合? という日までの数ヶ月、毎日お世話する訳でもなく、時々思い出す程度の距離感も、私にとってはちょうどいいようです。
年が明け、2月。今年も味噌づくりの時期がやってきました。
日曜日の昼下がり、友人宅の玄関を開けると、しっとりと温かな空気が迎えてくれました。ほのかに甘い大豆の香りがただよっています。
それもそのはず。友人は、大豆を6時間も前から大きな寸胴鍋で茹でてくれているのです。大豆を茹でるのに、こんなに時間をかけているんですね。
毎年おなじみの寸胴鍋ですが、実は友人が近所のバーからお借りしたもの。そんな地域になじんだ生活をしていること、そして、年に1回のために買うのではなく「借りる」という選択をしている友人の暮らしぶり、いいなあと感じます。
さて、味噌づくりの材料と必要な道具はこちら。
<材料>
大豆(乾燥) 500g
生米麹 1kg
塩 250g
大豆の煮汁 約70ccm
<道具>
味噌樽(2ℓ以上)
焼酎など高濃度のアルコール
たっぷりの水に大豆を浸します。一晩水に浸すと、2倍ほどの大きさに。
大豆を浸していた水をそのまま鍋に入れて、じっくりとコトコト煮ていきます。途中で出る大量のアクをこまめにすくったり、水が少なくなったら足したりしながら数時間。
大豆の大きさや浸水具合によっても煮る時間は変わりますが、通常は3・4時間程度。今回6時間ぐらいかかったのは、少し弱目の火で茹でていたからのようです。年に一度の作業なので、「どうやるんだったかな?」と思い出しながらやっているとか。茹でている間は他の家事をするなど、基本的には放っておいていいので、時間はかかりますが手はかからないよう。
茹で上がりの目安は、指でつまんで簡単につぶれる柔らかさ。このままパクッと口の中にほおりこみたくなりますね。
手で触って作業できる程度まで少し冷まします。
冷ましている間に、米麹と塩を混ぜていきます。この作業を「塩きり」というそうです。
麹が入ったビニール袋を開けると、ふわっと広がる甘い香り。塩を少しずつ加えては、麹をつぶしながらよく混ぜる作業。
手の甲にあかぎれのある娘(11歳)は、塩がしみてヒリヒリと痛い様子。塩がしみることを娘は味噌づくりで覚えました。
さあ、ここからつぶす作業に入ります。
ビニール袋に入れた大豆は、まだまだ熱々のほっかほか。手でつぶすにはちょっと熱かったのでタオルを間に挟んで上からぎゅーっとつぶします。
あたたかくて、まるで湯たんぽのよう。思わず、タオルで包んでほほに当ててしまうほどの心地よさ。自然と笑みがこぼれますね。
友人が大豆をとてもやわらかく煮てくれたので、大豆がどんどんつぶれてぺちゃんこに。
数年前までは爪で袋に穴を空けてしまったり、すぐにあきて遊び始めていた娘ですが、今年は立派な戦力に。私と同じか、それ以上のペースで大豆をつぶし終わりました。毎年一緒にやっているからこそ、娘の成長がわかります。
つぶし終わった大豆をテーブルに広げ、大きなドーナツ状に。真ん中に、塩きりした米麹をひとつかみ入れ、ドーナツを崩しながら大豆と麹をよく混ぜます。
パラパラの米麹は、手の動きが少し雑になるとパラリと床にこぼれ落ちてしまうので、できるだけ散らかさないように気をつけながら。
混ぜ込んでいくうちに、手がしっとり、そしてツヤツヤになっていくのがわかります。まるで、天然素材の保湿パックのよう。
麹を混ぜていくほどに水分が少なくなってくるので、時々、大豆の茹で汁をおたまですくって水分補給。まだ温かい茹で汁が、とても心地が良いのです。
ついつい茹で汁をたくさん入れたくなるけれど、入れすぎるとベチャベチャになってしまうので、様子を見ながら少しずつ。「ひび割れない程度」がポイントです。
最後は富士山のように裾野の広い山状にして、ペタペタ叩いて空気を抜きます。すべっすべの肌のように表面がなめらかに。
気持ち良くて、やっぱりほほで触れたくなります。
丸めてお団子を作ります。丸めたら、ハンバーグを成形する時のように手のひらに打ち付けるように投げて、空気を抜いて。空気はカビの原因になるんです。
すべすべのお団子一つ、二つと増えていき、キレイに整列した状態はなかなか壮観。
味噌樽を食用アルコールスプレーで消毒。雑菌はカビのもとですから、丁寧に。
できるだけ空気が入らないように隙間なく詰め入れたいので、樽の底に向かって力強く投げ入れます。
うまく行った時は、キャッチャーミットにストライクの球がパシっと収まるかのようないい音がするけれど、うまくいかなかった時は鈍い音に。
底が見えなくなったら上から手でしっかり押して、隙間を埋めて。表面を平らにならしたら、ボール投げの2回戦。お団子がなくなるまで繰り返します。
最後は、表面をきれいにならします。手の平で上からギューっとおし、段差もなくなるようになめらかに。
表面がツルツルになったら、あとはふたを閉じるだけ。へりの部分についた大豆をアルコールを含ませたキッチンペーパーで丁寧にふいて、味噌の表面にもアルコール薄く吹きかけて、ラップを被せます。
空気が入らないように、折りたたんだキッチンペーパーで中央から外へと空気を押し出したら、蓋を被せてできあがり。
あとは、発酵が進んで味噌になるのを待つだけです。次回は保存方法と、1ヶ月後のカビチェック、そして完成した味噌の様子をお届けします。
平地 紘子
ライター。大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身
「使う」「食べる」など、日常生活を通して考える力を養い、自ら思考し、判断する人を増やしたい。
yaunnは、身近な生活を通してものごとに興味をもち、自分の視点を養うこと。 それが、さまざまな問題を解決する一歩目になると考えています。
すべての人が自ら思考し、判断する力をもつ。
それによって、世の中はより良い方向へ変わると信じています。
yaunnについて、詳しくはこちらをご覧ください。
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